寺坂真貴子です

弁理士です。

【侵害コンテンツのダウンロード違法化等に関するパブリックコメントへの意見】

1.保護
1-1.リーチサイト等を通じた侵害コンテンツへの誘導行為への対応について
 国内リーチサイトは現状でも特に悪質なパッケージごとの侵害をDMCA申請、情報開示申請、アクセスブロック、侵害訴訟することができる(漫画村での山口貴士弁護士のように)。つまり緊急手段ではあるがプロの手で十分に対応ができた。(今後パッケージ分割がなされても改変権侵害で侵害事実の上乗せになるだけであろう)
 今般のリーチサイト誘導行為対応は訪問サイトの悪質性の確認、ブラックリスト作成の労力を全サイト運営者、全ネットユーザーにまるごと転嫁しようとする法案である。
 リーチアプリをのぞけば人的労力や正確性の点で到底達成可能とは思えない。
 (なおリーチアプリだけなら達成可能である。なぜならアプリショップで掲載にあたり内容審査があり、法的に問題があるアプリは基本的にショップ掲載されず通常の手段ではアプリそのものへのアクセスが不可能となる。またショップ掲載されない違法アプリの使用者はアプリの使用が侵害など違法行為との関係があるとの認識がすでにあるとみなしても問題ない。侵害化しても通報もうけつけているので、現状を追認する形で法律ができても業界が混乱する度合いは少ないと考えられる)
 また法案をみても「殊更に」「二次創作」「(技術的に)可能」「ウェブサイト」など使用者によって定義がブレる用語を多くふくんでおり、一般人には正確な理解が困難であり、今以上に著作権法が「群盲象を語る」ような恣意的運用を許すザル法となるおそれがある。
 一方で、すでにダウンロード違法化されている音楽・映画の侵害サイトをみると国内では悪質なサイトも目立たず、侵害コンテンツに善意の第三者が誤アクセスするケースは減っている。これはP2Pなどの交換手法の制限、プロバイダ責任制限法などのほかにJASRACという公正さのわかりやすい団体がホワイトリストにあたるUGCリストを作成しており、スマホ向け音楽販売者も著作権者への利益還流に積極的に参加しているため、すくなくとも国内音楽業界全体でユーザーに「どう利用すればよいか」の指針を示す対処ができていることに起因すると考えられる。
 マンガ侵害の現状はリーチサイトも下火になり、次世代のマンガ提供として、一日一話分チケット・スタミナ無料配布する貸本型サイトにとってかわられつつある(複数の同趣旨のサイトが存在するので全部に登録しまくれば結局一日10話くらいはタダで読める計算)。
 読者からみればこの複雑なフリーミアム制度がどのような許諾状態に立脚するものかの確認方法さえ理解できないため、なんとなく違法そうでも敢えて使ってしまう。また、単行本1冊が著作であると考えると、マンガ1冊を1話ごとまたは1頁ごとに切り出しを行い、しかも前後に関係のない広告を必ずみせられるように掲載することは、著作改変権侵害にもあたるのではないかとの疑いもある(もちろん著作者の許諾があればかまわないはずだが)。
 この現状において、あいまいな用語と手法のみで違法性を規定しようとするのはわかりにくさのいたちごっこの加速と人的労力の空費、また最終手段である政府アクセスブロックの濫用を許しかねない。
 最小限、パッケージ済みの市販著作(たとえば1話分または単行本1冊分のマンガ、単行本1冊分の小説、一号分の雑誌)をJASRACのように登録し管理し、場合によって怪しいものの通報をうけて徴収や監査を行い、調査結果がホワイトかブラックかを公表できるような、統一的な書籍系出版物の権利管理団体の設立(もちろん、国際書籍番号ISBNやamazon番号asinを利用して管理すれば効率的となる)が最も優先すべきことなのではないか。なお論文についても一報ごとの論文についてはDOI番号で管理が進んでいるが、学会雑誌1号分は前記したように新規著作権管理団体の管理とするべきではないか。
1-1の余談
 この法案が施行された場合は多くのサイト運営者が困ることになる。その理由を付記する。
 リーチサイト規制は当然必要だが、侵害リーチサイトの多くは海外サーバーを利用しつつ米国グーグル社の検索に登録している。現状のままでもDMCA申請や情報開示申請を利用したグーグル経由のアクセス制限、情報入手制限、及び侵害訴訟といった対処が可能であることを山口貴士弁護士がすでに実証してみせた。ただし米国など現地の社会資源にただのりする形になっているため、必要に応じてプロバイダ責任法条約の締結、それに応じた日本国内プロバイダ助成整備などは必要になると考えられる。
 プロバイダ責任法を改正せず現状のリーチサイト誘導行為規制だけを立法した場合には日本の社会資源である日本サイト運営者にとってリーチサイトの定義が十分でないことで余計な負担をかける。
 113条2項イ号「殊更に」とはどの程度をいうかがわからないし、その上で悪質な侵害者が自己のリーチサイトを運営せずに投稿型サイトへ投稿する行為が対象に入ってくる。
 例えば「保育園落ちた日本死ね」との匿名投稿が国会で取り上げられたことで有名になった「はてな匿名ダイアリー」は匿名議論プラットフォームであり、社会的資源として有用なサイトであるといえるが、現状、メンテ人員がたりず外国語動画広告スパムが防止できておらず日本語悪質書き込みでも通報後の判定および削除作業に2~3営業日(休日をはさめばもっと)かかっている。もしこのサイトに悪意をもって運営妨害したい場合には、削除作業までのタイムラグがあることを利用し、リーチサイトリンクの連続書きこみ、リーチリンクのスクリーンショットや魚拓取得、バレたらアカウント消し逃げ再登録といったいわゆる粘着荒らし行為に違法リンク貼り付けを巻き込んでくりかえすことで投稿型サイト全体を113条第3項にいう「防止技術を持っているのに防止措置を講じないサイト」にあたるとみせかけることができそうである。そして法律上著作権侵害を目的とするリーチサイトであると裁判所に認定させ、アクセスブロッキングなどの即時対処を行わせるという事例が想定できる。
 このように、違法ダウンロードを防止するための運営コストを投稿型サイトに負わせることはサイト運営者のみならず投稿者、アクセスするユーザーの自由な情報交換をも混乱させ萎縮させる。
 さらに現状では漫画村等リーチサイトに変わって新たに貸本屋型のサイト(サイト内で共通のスタミナまたはチケットを一日につき任意の漫画一話分だけ無料配布し、広告視聴やチケット購入でさらに追加で読める形式。時間をかければ全話無料で読めるし、個人がこの種類のサイト10ヶ所に登録すれば、検索の手間はかかるが1日に10話ずつが無料で読めるので、ストリーミング型とはいえ漫画村とおなじように無料での思想・感情の享受ができる)が増えており、ここで読める漫画は作者の承諾を得て公開されているか、どのような仕組みで運営されているかが傍目からはほとんど判別できない(当然ながらどのサイトも著作権非侵害、広告収入による作者利益還元を謳っている。赤松氏の提案になる絶版マンガ特化サイト「マンガ図書館Z」を真似している)。
 したがって出稿規制などの民間ベース取り決めのほうが推進されるべきだし、読者からみてもわかりやすい目印をつけるべき。たとえば音楽ではJASRACニコニコ動画facebookはてなブログ等のサイトと包括契約をしていることをJASRAC側のUGCリストとして公表している。漫画でも公的機関がお墨付きを与えたサイトであれば使えることがわかる。公的なサイトにリスト掲載、またできればそれぞれの著作権料支払い実績額の公示などがなされていれば、確実に版権処理を行っているとわかる。そのためには定期的な監査をする漫画版JASRAC相当の著作権管理団体も必要になる。素人でもわかる情報ソースがなければ現状どおり、ダウンロード違法化は「政府が口だけでいっている」「みんながやっていて大丈夫ならたぶん俺も大丈夫だろう、とりあえず重過失はないはずだ」というあいまいな手法で判断せざるをえないことになる。
 これらの手順を踏まないリーチサイト違法化は読者に混乱を与えるだけになる。
 一方で、リーチアプリの場合は、アップルappショップやグーグルストアなど配布手段がしぼられており、掲載時の審査が厳しく、通報への対応も素早くい。またスマホでは、アプリ1画面あたりの情報量がPCに比べて相当に少ないため、リーチ目的ならリーチ情報のみに特化していないと侵害目的ユーザーが多数つくことにはならない。このようなシステム的制限がすでに存在するため、リーチアプリ違法化による混乱はリーチサイト違法化に比べて相当少ないものと考えられ、早急に実行すべきと考えられる。

1-2.ダウンロード違法化の対象範囲の拡大について
 ダウンロード違法化の対象範囲拡大そのものには異論はない。音楽でのJASRAC同様にしっかりやっていただきたい。ただし二次創作の除外について、今般の法案には著作権法第28条を誤用していると指摘したい。
 前提として当然ながら翻訳物、メディアミックスたとえばアニメのノベライズ(著名な例は小説版「君の名は。」)、また公式スピンアウト作品などの二次的著作物はダウンロード違法化の保護対象内にあるべきである。スピンアウト作品(たとえば四コママンガ「機動戦士ガンダムさん」という出版物があり、アニメのスピンアウトである)を個人がコピーしてネット配布しても、これも著作権の侵害であり刑事罰をうけるのでなければならない。
 著作権法28条にいう「二次的著作物」は本来は翻訳物やメディアミックスなどをいうものであり、二次的著作物であっても出版権その他の著作権が原作者にあることを28条が間接的に規定している(出版権を行使し版権料を受け取るかは作品個別に契約することになる)。
 一方で同人誌のような「二次創作」は名前により「二次的著作物」と混同されがちだが重大な違いが有る。
 コミケ参加者などが問題にしている二次創作とは、現作品を下敷きにはしているものの、公式からの許諾や指図をうけずに、ストーリーやキャラのアイデアのみを借用しあえて換骨奪胎し自分の手癖で似顔絵をかいた、自由な発想の、同じ趣味の人だけの中での交換日記のような、私的解釈による創作を指すものである。
 二次創作同人誌(私的創作物のうち冊子のもの)は原作をトレス(光学模写)したのでないかぎり改変権侵害にもあたらず、表現の自由として良作品に接した感動を発露した私的創作であるから28条に規定されるような版権料支払いの義務を追わないと解釈すべきである。実際に私的創作の出版にあたり、原作者に「改変権の侵害にならないかの打診や、版権契約を申し出て版権料を払って」やっている二次創作同人誌作者は(アニメスタッフ本やアシスタント本など権利者の知己以外では)いないと考えられる。(逆に二次創作同人誌の評判から公式スピンアウト四コマアンソロジーに指名されて原稿料をうけとっているセミプロは存在する。)
 したがって、二次創作同人誌を119条から除外しようにも、もともと著作権法には保護対象として想定されていない存在であるので「28条にかかる著作物」とのよびかたは不適切であり、せいぜいが「(ISBNの付与もなしに)私家発行された著作物」との呼び方とすべきである。
 一方で、現状著作権保護をうけているはずの二次的著作物の28条を119条から除外すれば翻訳ものや公式スピンアウトなどが頻回ダウンロードで侵害行為をうけても刑事罰は与えられないことになってしまい、スピンアウト作者や翻訳者、そして原作者にとって不適切な事態となる。
1-2の余談
 余談だが、私的解釈の私家発行だからと版権料を払わない一方で、同人誌即売会などで部数を大きく万単位(部数)を売りあげる同人誌作家(いわゆる壁サークル)がでてきたのも事実である。フィギュアの場合はワンフェスの一日版権設定を行ってライセンス料や作品制作数や流通経路を細かく契約しているのに、同人誌の場合は二次創作を同人誌にして必要以上に売れてしまった場合にもライセンス料を払っていないことには不合理がある。
 将来、28条に改正で「売上部数の多い(たとえば原作1巻の公式発行数の50%以上)二次創作私家発行物は、個人的内容の制作物であっても私的性質を失い二次的著作物として追認され、版権契約を結び、版権料や流通経路について(内容以外はやりたい放題にならないよう)原作者から一定の合理的制限を受けるものとする、ただしその場合も憲法にいう表現の自由に基づき発禁処分や不合理な制作数制限は受けないものとする」等とあらためて明示的に盛り込む必要性はあると考えられる。
 しかしその際にも二次創作同人誌(事後追認)の正規版ダウンロード侵害が行われ二次創作者および原作者の損失が発生する事態は、刑事罰により防止すべきであるから、今後とも119条から28条を除外するのは不適切であろう。
2~7については特段の異論がないので省略します。以上