寺坂真貴子です

弁理士です。

表現規制について。 

まず免責を。
表現規制弁理士の専任事項ではないので門外漢としての寺坂個人の意見です。
 
従来の「刑法175条」はわいせつ物の頒布、販売目的所持などを規制している。
最近改正されたので、印刷物だけでなく、電磁的記録も含んで規制している。
いわゆる表現規制で、プライバシー侵害(柳美里事件)や名誉棄損などとならんでよく適用される項目だ。
だが、表現規制が可能な法律は近年さらに3つ追加された。
被写体・描かれている人によって用途がざっくりわかれている。

・実在未成年者の場合→児童ポルノ法(本人の同意があって、あるいは未成年本人が自撮りしていても違法。なお実在の未成年モデルを模写した3DCGのキャラ絵も児ポ法違反にあたるとの判決がすでに出ているので、実在未成年をリアルに模写したものも児童ポルノ法違反である)
・実在成年者の場合→リベンジポルノ法(本人の同意なしに公開するなど要件が厳しい)
・架空キャラクターの場合→青少年保護育成条例(ただし、タイトルを見ていると発禁本になるのはエロのみではない。内容が過激であったり犯罪肯定表現など掛け合わせが多い。また、架空キャラクターで保護育成条例違反との判定がどの地方自治体からもでていない個人出版物も、クレジットカード会社の引き落としができなくなり販売サイトが取り下げざるを得なくなる事例もあり。)

先に結論を言うと、「すでにこの3つの法(+電子コンテンツ配信)が十分に機能しており、これからも拡充されていくのなら、そろそろ刑法175条は不要、あるいは方向転換すべきでは?」という趣旨です。
 
この3つの保護対象は性質も違う。実写の股間とアニメの股間におなじ表現基準で「わいせつ」かを判断できるはずがないと思うのだが、175条はそれを何十年もやってきた法律だ。
私たちの世代では宮沢りえサンタフェ事件が有名だ。
その前では「四畳半畳の下張り」や「チャタレイ夫人」といった小説でさえ、「わいせつ」扱いされ発禁され出版社から逮捕者が出た。
そして令和ではまんしゅうきつこさんが、自分の体の女性器を型どりした模型を頒布しようとしたときに175条がでてきた。
さらに、大昔のビニ本(陰毛がうつっている写真集)を倉庫保管していたまんだらけ(同人誌販売で有名)の店長までも175条で逮捕された。
 
刑法175条は基準が時代によって全く違うし、同時代の中でもメディアによっても違う(成人向け動画ならモザイクでよいなど)。基準が動的で一見、つかまえどころがない。
素人でもスマホで高画質で自分の股間をいつでも撮影でき公開できる時代にはもはや意味がないだろうにどうして股間露出度である「わいせつ」基準で人を捕まえられるというのだろうか?
そもそもわいせつの基準が固定されてもいないのに、である。
 
判例をみていくとどうやら、わいせつ=エロでの実用度ではなく、「まんしゅうきつこ」という女性蔑視につながりかねない名前で広く売ろうとしたり、まんだらけの場合はビニ本は店頭にだしていないが成人男性向け肌色本(一応わいせつとならないように股間隠蔽処理済み)を店頭展示販売したことに対する余罪逮捕らしかったり、チャタレイ夫人の場合は不倫を美化していたりというその時代からみての性に対する慎みを維持しようという部分も併せて判断しているようだ。
だが、裁判所が基準を明示していないので自主規制自主規制で個人出版も広まっているのにリベンジポルノや差別問題とダブルスタンダードで非常にめんどくさいことになっている。つまり、最近つかわれてる事例はほぼ余罪逮捕とかみせしめ逮捕なのでは?
いや、よく見るとむかしから余罪逮捕専用だったのでは?と思えるのだ。
  
一方で、性的表現には性差別や暴力・脅迫がつきまとうのも事実だ。
最近もセクハラ写真家事件、ハリウッドのmetoo事件があった。暴力や脅迫はそれそのものが犯罪であり、その結果得られた芸術作品も規制すべきというのなら基準もわかる。
でもならばなぜ「わいせつ」=エロそのものだけが規制されなければいけないのか?(余談だがその余波でアセクシャルな方も増加してしまってこんなに少子化が進んでしまったのでは?)
本当に撲滅すべきは股間(わいせつ物)の写真よりも、男女平等や尊厳を害する性犯罪や差別犯罪、特に母子家庭の貧困や女性差別の結果の少子化の存在なのでは?
 
女性の下腹部の毛、あり?なし?元モデルの投稿した水着姿が議論の的に(フィガロジャポン) - Yahoo!ニュース

今後、175条はわいせつな表現よりも出演者や影響が及ぶ人(出演者の家族、目にする子供、社会)の心身の健康や尊厳や将来を傷つける表現を規制すべきだ。
 
当然、キャラクターも都合のよい空想的異性ばかりではなく乱暴に触れれば心身が傷つくし、女性なら生理や妊娠があるとして描いてほしい。これはエロがらみでなくても起こり得る。だがそれはやっぱり青少年保護育成条例で充分なのでは?
 
今は成人向け表現の業界が175条のせいもあって、人柱を出したくない出版業界が「規制と表現のいたちごっこ」という奇妙なゲームにコストを割いており、「結合部黒塗り」だの「女性の股間じゃなければいいわけが立つだろう」「人間じゃなければいいだろう」などとの言い訳を作家に敷いている。そのために個人の嗜好もねじまがったのか、現実から乖離した奇妙奇天烈な表現(を好む作家)が増えた。
たとえば成人向けでは「成人女性」でも毛や割れ目や乳首や腋毛などが本来あるべき場所にないのが標準的表現であったり、逆に服の上から透けていれば規制をとおるとして実用できない程度の服をあたりまえの制服などとして描いたり、ランドセルは児童の記号としてあつかわれるから別の鞄を描いたり、ケモノ化、人魚化、はてはドラゴンカーセックスつまり竜が自動車の排気口(いわゆるマフラー部)に挿入するなど。本当に奇妙な性表現が氾濫している。
これらはもちろん青少年保護育成条例や児童ポルノ防止法などによって子供や見たくない方の目に触れないか厳重に監視はされなければならないだろうし、将来正しく異性に関する事実を知らされるべき子供の目に情報漏れの形で振れてしまって性癖を歪めてしまった場合は厳しく規制されなければいけない。
が、一方で175条の存在が生み出してしまった鬼子であっても立派な日本文化として認めるべきものでもあると思う(クールジャパンというよりhentaiという言葉で広まっているのは相当に皮肉だが)。
こういうくだらない自主規制ゲームに出版業界を汲々とさせてしまったことは175条の罪である。
表現を「ただわいせつだから」という理由で規制されるべきではないとおもう。アメリカのAV業界で一時期あったように男女同権でイヤといったら即辞める、黒人も白人も出演させるといった差別解消プログラムを導入して堂々と成人だけに売って、少子化解消の一資にすればいいと思う。
  
一方で、クールジャパンをかえりみると、アニメでは、視聴者(子供)を傷つけるものがある。たとえばまど☆マギ、メイドインアビスおそ松さんなど、絵柄がかわいいわりに刺激が強いアニメ。
一応、現状でも深夜時間帯の放映で工夫はしているようだが、できれば守るためにR15やR12指定もできてほしい。でもこれはわいせつより青少年保護育成条例や放送局自主規制で済む話だし実際そうなってきている。
ゲームにもすでにCEROという年齢基準がある(守らない親に罰則がないのは少し問題だが)。これもわいせつより青少年保護育成条例やそれに沿う自主規制で済ませている。
特に、配信型コンテンツはスマホやスイッチなどで子供のコンテンツに親が規制をかけられることが多い。
まだふらふらと頼り無い部分はあるが、わいせつでない部分の自主規制(いわばシビリアンコントロール)もなんとか滑り出している。だがそれはクレジットカード会社や放送局、配信サイトの偉い人の一存だったりするので、統一された基準がなく、会社によって判断が違うなど、かなり頼り無い。
(そういった表から見えない規制に頼り切りで、電子配信に宗教などのプレッシャーがかかることが常態化してしまうと本当に面倒なことになるおそれもある。)
  
もちろん青少年は過激エロ・グロ・犯罪・自殺・麻薬といった有害なコンテンツから保護されるべきだ。しかし、18歳以上の成人が尊厳と知財を守って視聴する成人向けのまっとうなコンテンツは、もはや「わいせつ物」だからという理由のみで規制をしなくてもいいのではないだろうか。「わいせつ物」はあなたの股間にもわたしの股間にもついていて、そしてあらゆる人類の親となってきた大事な器官なのだし。