寺坂真貴子です

弁理士です。

学習済みAIやそれを動かす作画プロンプトセットは特許で保護されるか

研修で、経産省AI契約ガイドラインを読んだ。
通常版(経産省版)AI契約ガイドラインについては多くの講師が「成果物であるパラメータを特許で保護できない」と決めつけていらした。弁理士だからというわけではないが、腹立たしい。
化学分野では昔からパラメータ特許でなければ保護できない分野があり、そのまま(ほぼブラックボックスのまま)保護することに長けている。
組成物(高分子や合金)、それにツィーグラーナッタ触媒などである。
またライブラリ合成などで多数試行錯誤を行って特許開発をしている。その試行錯誤がいまさらAIに置き換わったところで、発見されたものの価値が高ければ特許保護できる可能性は高いのに、どうして最初からあきらめるのか。
明細書記載についても、たとえば遺伝子関連特許ではキモになるDNA配列表を明細書(データ)に添付することで配列同士の相同性を算出させ比較検討をして審査をしている。
だから非常に長いパラメータになったとしても特許庁内にAIパラメータ特許用の整備をすればいいだけのことなのである。
したがってAI深層学習で得られた、AI機能のコアになるパラメータそのものは絶対に特許がとれないという言論には到底同意しかねる。装置なりプログラムに落とし込んで機能を独占し、またリバースエンジニアリングで侵害を発見することもできないはずがないと思う。
   
また、農業版の場合は農水省ガイドラインを改変しているが、これも大変つかいづらいとおもった。
特に、国策などでAI学習を行う場合、地域内に利用をとどめることという規定をいれている。
これは古参のノウハウを提供できる農業参入者に独占権的な保護を与えることでAI学習のインセンティブを与えるためのもののようだが、なにより新規農業参入者には不利である。
農産物ではないが「熊本あさり」のような国内でも気候変動や海流変化により新たな産地を探さなければ人手ばかりかかってもはや維持できない農林水産業が現実に存在している。江戸や明治なら放っておけばそこらへんに勝手に生えてきてザクザクとれたものが、いろんな理由で絶滅寸前になっており、留学生を借り集めての人手集約型や輸入してばらまいて短期間育ててのレッテル貼り換えといったちょっとずるい手でないと維持できなくなっている状況がいろんなところに発生している。
それを人間よりかしこいAIに永遠にノウハウ保存できるようになったのである。「知恵は無限にコピーできる」、これも知的財産の宿命である。だからといってその知恵を地域内で独占だけさせても、老齢化でいつかは絶えてしまうかもしれない。
もしこれらの産業をAIで産出された適度な場所に国内移住させ、新規農業を開発すれば、熊本あさりも日本の中ではブランドとして残ったかもしれないのに、可能性を自ら断っている。つまり新規に開拓することができない。
  
さらにいえば、海外から知見を輸入する場合にとてもやりにくいのではないか。
グーグルマップのようにタダノリできればいいが、アルファGOやAI向けサーバーレンタルは通常は有料である。
このままだと互恵条約的なプラットフォームが出来たとしても日本が参加させてもらえない可能性があるのではないか。
日本国内に奇跡のブドウ産地があってチリやカリフォルニアを上回るワイン産地になる可能性があったとしても海外のワイン産地AI判定ができず作れないで終わるといったことがあるかもしれない。
少なくとも今の制度では他国より先んじて外国産農業AIを利用させてもらうようにはなれないで終わると思う。
地産地消」というのももちろん(コロナで輸送が滞っている今)大事なことではあるが、結局、適地で栽培するのが一番楽だ。
日本ではブランドにこだわって人手集約型農業にとどまるのでは他国(たとえば中国)の人海戦術に負けて終わるだけだと思う。
せめて、特許の20年のような独占契約期間がすぎたらベンダーや国といった適切なコントローラーに使用権を渡すといった法制などがほしいところだ。
 
GI制度もそうだが、「高級品」として保護する価値のあるものを作り出そうというのではなく、既存産業を守ることだけに目がいっているようだ。
ベクトルがてんでんばらばらに見えて首をかしげてしまった。