最近amazonのキンドルダイレクトパブリッシングに興味がある。というのも
紙本をセラーセントラルに登録するのはとてもめんどくさくなってしまった
たとえば
とある大学の講師が講義でつかった資料をまとめ、副読本のような形に編集したとする。これを印刷所に入稿し、金も払って適法に印刷し、自分オリジナルの物理書籍(紙製)としてamazonセラーセントラルに登録しようとするケースについて
考えるとすると、実質上、自分でISBNをとってからしかできないのである。ISBNはふつうに日本図書コード発行センターに頼むISBNがシングルコード(単発)8000円+住所氏名提出。+ISBNを提出して書名JANコードもつくるとさらに10000かかる。それだけでモノによっては印刷代以上になる。
4,980円で紙の本を出版してアマゾンで販売!|MyISBN こちらは安いが、ISBNだけでJANはとれないようだ。
なぜそうなっているのか?←amazonを業者が蹂躙したから
すでにamazonは「世界一大きなインターネット通販会社」であるわけだし*1、各国の不法業者が法*2の抜け道をつかってやりたい放題した事実があるので、「ISBNのついたものしか最初は登録できません」「しばらくつかわれてない上にハッキングされ不正利用されたamazonセラーアカウントは、元の持ち主にろくに知らせもせず勝手に永久閉鎖します」という厳しすぎるポリシーは、まあ、わからなくもない。*3
それでも怪しい商品は今もまだamazonに登録されている。とくにアップルアイフォンの関係のサードパーティの周辺機器は「合法、稼働するとかいてあって高くても買ったのに、3ヶ月で(アップルに対策されてしまい)ろくに使えなくなった」などというレビューが多い。純正品の売上保護のためのサードパーティ製品に対する機能抑制も行き過ぎると訴訟対象になるのではないかとおもうのだが(純正品充電池の出力をわざと低下させる仕様についてはすでに米国でユーザー訴訟を起こされて負けている)、ここではその話はおいておく。
電子書籍は楽園か
amazonセラーセントラルはそういうわけで個人では全然太刀打ち(登録)できないのだが、おなじamazonでも電子書籍向けのキンドルダイレクトパブリッシングだとASINがつけられるし、対価0円として公開していてもアマプラからちょっとずつ印税が入ってくる。ISBNがなくてもASINがつけば同内容での紙書籍登録もやりやすそうだ(実際にやってないからしらないが)。
でも自作のセキュリティなしpdfを電子書籍として売ると、人気が出てしまったときにコピーされ再配布されやすそうな気はする。一応公衆送信権侵害にはなるとおもうので発見したら本人が親告罪として訴える用意をしておかなければ。
そしてプラットフォームによってはコピー配布の発見が困難なpdfしか用意がないところもあってこまる。
となると「やっぱり紙本のほうが確実に収益が手に入る」。はたしてそうだろうか。
コンテンツは紙であるべきなのか
コンテンツはかならずしも著作物ではない。特に思想と感情の表現物でない場合は著作物ではない。
また、思想と感情の表現物であると一般に認められている「言語の著作物(一般に小説・漫画はここに分類されることが多い)」の場合にも、著作財産権として設定された権利は「出版権」と「複製権」「公衆送信権」「口述権」「貸与権*4」「映画化権」しかない・・、意外とたくさんあるけど一部は実効性が薄くてあまり守られていなかったりする。(とくにJASRACのような強い著作権管理団体がいないジャンル)。
また、公益のため「図書館法」や「消尽論」をたてまえに、「業として」どうどうと著作権を侵害している人たちがいることに不快の念を示している著者はいる。このへんが整理されていない*5。
このため日本では、複製も出版もしない思想と感情の享受(紙本でいう図書館や漫画喫茶やブックオフ立ち読み)に対して料金を取り立てることが、著作権法だけではやりにくい。(不正競争防止法のセキュリティ解除禁止や有料コンテンツ課金回避禁止でなんとかすることはできそうだが判例がまだ見当たらない)
さらに、アメリカでは紙本に準じた個人の貸与権が電子書籍にまで設定されているし、図書館利用の半分ちかくが電子書籍貸し出しになっているという。
また紙本の大手顧客はクレカとスマホをもたない未成年であるが、教科書・参考書・漫画としていきのこるかとおもったらコロナの後押しとH30年法改正であっさり電子教科書が実現しつつある。(もとからベネッセがタブレットをわたさせていたけれどそれを小学校がやるようになった)
となれば紙本というものが確実に滅びつつある今、「公衆送信権」ですべてが済むようになり「複製権」「出版権」「貸与権」に関する著作権はもろともに滅びようとしているのではないか。ついでにamazon(特にセラーセントラル;紙本向け)と図書館(日本では紙本メイン)も滅びそう。ブックオフと漫画喫茶はビッグタイトルのみにしぼることでお目溢しを頂いてもうすこし長く生き延びそうだが。
電子書籍における表現規制に意味はあるのか
エロ・グロ・犯罪は今でも表現規制の対象であり、紙本でも電子書籍でもモザイクなどにより緩和されている。さもなければ「わいせつ図書販売目的所持」として法に触れることになってしまうのである。販売じゃなく配布の場合は「わいせつ物陳列」。どちらも刑法175条。
「青少年保護育成条例により指定されるとamazonでポチれなくなる」ことがエロ漫画家の生命線を断つといって反対運動が一時期盛んだったが、最近の主流はエロ漫画単話購入でつまりエロコンテンツユーザーはスマホにエロコンテンツをかくしておけるようになってwinwinである。そうするとわいせつ物を「陳列」したというのはおかしいようにおもえるし、実際のところ、あまりにショッキングなものでなければ取り締まられにくいまま存続してきてはいる。
図書館と漫画喫茶と表現規制がある世の中で著者はどうやって食いつなげばいいのか
やっぱり紙じゃないデジタル著作権法とデジタルミレニアム著作権管理団体をよくまとめて作ったほうがいいとおもうんですけど。現時点では不正競争防止法が一番つかいやすそう。
もちろん、著作人格権にたいする侵害は名誉を害されたり作家生命に関する部分だから補強したほうがいいとおもうけど、ついでにアイドルの肖像権とキャラクターの肖像権もいれて顧客吸引力コントロールを法律ではだれがどういうふうにコントロールするかってのもきめておいたほうがいいようにおもう。
「漫画は言語の著作物」「音楽CDはレコードの著作物」なんて古い区別がもう意味がないとおもうのです。動画(配信)、静止画、ボカロ、歌い手、youtuber・・いっぱいいますしね。
あと、どうでもいい細かいことですが、著作者が複製権を「専有」するのに二次的著作者も二次的著作物に対する権利を「専有」してさらに原著作者も二次的著作物に対する権利を「専有」するとかいうので「専有」がゲシュタルト崩壊するのでそのへんの定義もしっかりやってほしいです。なにをもって、だれの権能で、「専有」してるのか?ってことを。
参考:著作権法
条文 | 演劇・音楽 | 映画 | 言語 | 美術・写真 | その他 | コメント |
§21 | 複製権 | |||||
§22 | 上演・演奏 | 事実上、文学、音楽や映画など上演することはできないと考えられている | ||||
§22の2 | 上映 | 事実上、演劇や音楽や文学などを上映することはできないと考えられている | ||||
§23 | 公衆送信権 | |||||
§23第二項 | 公衆送信されたコンテンツの受信かつ公衆伝達権 | |||||
§24 | 口述 | |||||
§25 | 展示 | |||||
§26 | 頒布 | |||||
§26第二項 | 例外規定。いわゆる孤児著作など | |||||
§26の2 | 出版 | 出版 | ||||
§26の3 | 貸与 | 貸与 | ||||
§27 | 編曲 | |||||
映画化 | 映画化 | |||||
翻訳・変形・脚色・その他翻案 | ||||||
§28 | 二次的著作権 | 専有をダブってない?「専」とは? |
https://system.jpaa.or.jp/patents_files_old/201105/jpaapatent201105_057-064.pdf