寺坂真貴子です

弁理士です。

疑似トレスと同じように炎上するのか?mimic

絵柄の特徴を学びイラストを生成するAI「mimic」が登場 “自作発言”や“他人の絵の悪用”などを心配する声も(1/2 ページ) - ねとらぼ
そもそも著作権法によりAI学習用の著作物利用は「思想感情を享受しない利用」ということで露骨に特定著作者に損害を与えるものでないかぎり権利制限規定(=侵害の例外)になっています。つまり、現在の著作権法だけに限れば、だれかの作品をAIに食べさせてなにかを作る行為は基本的に自由にやっていいということです。
 
それでも一応なりすましや炎上を考慮してだと思うのですがmimicの運営者のツイートによれば


mimic(ミミック)では15枚〜30枚程度のキャラクターイラストをアップロードすると、自動で顔部分を切り取り、AIが特徴を学んでイラストを生成します。規約によりご自身が描いた画像のみアップロード可能ですのでご注意ください。
※β版はロゴの透かしあり画像しか生成できません

となっています。さらに実際につかってみたところ、警告もしっかりあり、チェックが必要となっています。また口述するようになんでも生成されるわけではありません。
この契約とロゴプリントだけでもかなり悪用は抑止されるんじゃないかなーと思っています。
 
絵師さんの反応をみると、「はやくも自作の素材をAI学習に適用することを禁止する」と掲げる人もいれば、
「AIにいくらパクった素材を食べさせても自分の絵はかけない」と自信を見せる方も。
 
私はやはりこのAIは有用だし一応合法だろうとおもいます。
たとえばアニメのいわゆる版権絵(アニメ誌などに掲載するための本編に出てこない絵)で、アニメスタッフが同じキャラの顔何枚も違う角度から書かないといけない場合。
あるいは、漫画の背景に絵柄をあわせたモブ群衆を書かないといけないシーン。
普通に需要がありそうな気がします。
ということで本人の使用はさすがに合法ですね。
で、悪用についてグレーゾーンはあるのですが、実際のところいままでも写真トレスツール(アドビのイラレ実装済み)で実在の街並みを絵の形にして漫画の背景を書く人はいました。
このAIも現状ならその延長みたいなものだと思います。いままで幾多のトレス疑惑を炎上させてきたSNSならAIつかっててもトレスはトレスでやっぱり炎上するでしょう。
いわゆる「ハンコ絵師(すごい悪口ととられがちですが、安定してキャラ絵がかける人に商業的需要が高いという意味でもあり私は一種の誉め言葉ともおもっています)」にとっては福音でしょう。
ツイッターの作例提供に協力した絵師さんもいます。合法だから協力したのでは?
  
ただ、合法な悪用も考えられます。
たとえば絵に困ったVチューバ―とかがいらすとやさんなど無料使用できる著作物をまとめてぶち込んだAIに漫画をかかせたら著作権はどうなるんだろ…?とおもいます。 著作者の想定していない無料使用でしょうからなので訴えられそうです。
さらにいうと、Vチューバ―は母親とよばれる絵師から外見をつくってもらうのですが、母親の負担がおおきくて契約を打ち切られたら、仕方なくいままでに有償で書いてもらった絵と表情参考をAIにいれることで表情バリエーションをつくろうと考えそうでもあります。(ま、Vチューバ―自体がモーションキャプチャーとAIによるスキン生成の産物なのですが)
つまり、利用規約の「本人の著作物」なら利用OKという部分にもだいぶ解釈の余地があるので、そこが拗れると少々問題がありそうです。
「他の絵師やAIから有料で著作物を買った」人たち、あるいは「職務著作の権利者」も当然「本人の著作物(他人が書いたけど買い取った)」でこういうツールを利用したいはずだと思うんですよね。
著作者ってどの著作者だろう。権利を承継した著作財産権者なのか、著作人格権をもつ手を動かした人なのか。
私などはなんとなくポット出vチューバーがmimicを無料で使ってスキンを得るのはなんとなくダメで、アニメ・ゲーム制作会社の絵の描けない社長さんなら利用してもいい(むしろゲームではすでに職務著作のAIモーション化は何等かの有料ソフトでなされているだろうし)とおもいますが、勘にすぎません。
グレーゾーンのはずなのに差別していいのか。個別判断は現状捜査機関におまかせとありますが、差別だなどともめるとよくないと思うので、早めにしっかりつめておいたほうがよいとおもいます。
究極の安全策は契約者の契約内容を人力審査すべきだったりするんでしょうが、それだと利用料がハネあがるはずなんですよね。
 
ところが、これは内緒なのですが、一つの作品がトレスかどうかの人力審査ボランティアを毎日のようにやっている場所がある。それこそ、絵を見せびらかしたくなる場所、だれもが投稿でき見てもらえる、ツイッターピクシブといった画像投稿SNSがそれなんですよね。
だから特段厳しい審査基準を設けずに滑り出した。いにしえの2chの削除人任せみたいなことにみえます。
それもそこそこインターネット社会では合理的な集合知の利用方法ですが、ミッド~等にくらべてディスコードの電話番号といった身元確認がいらない。これは本当に侵害が起こったときどうなるのか多少不安です。
 
AIの話題からは少しはずれますが。
現在の日本の社会で著作物の「悪用」というのを決めている主体は法律の著作権法でもなく、行政(運用者)でも司法(警察)でもなく、ツイッター民の民意になってしまっている気がします。(それはそれで、議論が起こらず放置よりはずっと健全だとおもいますが)
同人誌でもそれで「だれかがだれかのトレスである疑いを示唆しただけ」でかなり大きな炎上、私刑のような事態が起こったりしています。トレス元、トレス被疑者、トレス指摘者。3人が3人とも全く得していない結果におわりました(トレス指摘者は逃げ切る寸前だったとおもいますが)。
悲しい事件は読んでいて本当になんというかやりきれないものです。
人力も常に正しいわけではないので、AIに消えない刻印をつけたくなりますが。
NFTといったチェーンブロックもなんだかなあ…ということで、
大きな転換期にいる「クールジャパン」ですが、よくよく考えて進みたいところです。

イラストのAI学習禁止はできるのかをAIエンジニアが短く話します - Make組ブログ
深津 貴之 / THE GUILD / note.com on Twitter: "日本は過去に「著作権法に萎縮」しすぎて、「検索エンジンから電子書籍から音楽配信から全負け」という物凄いトラウマ体験があるので…基本的にはこの辺の法解釈はアメリカの法解釈にあわせる感じでいくんじゃないかなぁと思う。" / Twitter
寺島壽久/ゲームキャストの中の人 on Twitter: "AIイラストが叩かれているけど、日本で叩いているうちに中国とかが権利気にせず技術を伸ばして、取り返しがつかなくなったころに「なぜ日本はAIイラストで先手をとれなかったのか」みたいになりそう。 AIイラストは多分止められない技術だし、うまい付き合い方を考えないと終わる気がする" / Twitter

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追記
ツイッターアドレスと自作のキャラ顔絵が最低15枚あればいいので、やってみました。
15枚の絵というのは、顔の輪郭だけを切り抜いたものが15枚に達しないとすすめないので、実際は20枚くらい用意しました。素材はすべて複数ファイルのドラッグアンドドロップ1回で入力するので、PCでないとやりにくいとおもいます。
なお自分のえらんだ素材から認定されない顔はありました。主に、腕や武器などが顔を横切ってしまっているものは苦手のようです。また、ピエロの鼻がついているものも無理でした。ただ顎に影がかかってる程度のものはとおりました。
横顔はそこそこ大丈夫でした。
逆に、素材のなかの服シワなど、顔として描かれていない部分が認定されてしまい、人力で除外しなければならない部分は一枚もありませんでした。
黒白絵は避けたほうがいいというヒントがあるのにあとから気づきました。
おそらく、書いていませんが中性的なキャラを狙うのでないかぎり男女もわけていれたほうがよいとおもいます。
 
現在混雑しているということで、学習済みセットができあがったらツイッターに登録したメールアドレスに通知が来るそうです。
推しをかいた自作の似顔絵の集合が実際に推しっぽい何者となるかどうか。楽しみです。

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再追記

イラスト生成AI「mimic」ベータ版の提供を終了へ 「不正利用を防ぐ仕組みが不十分だった」(1/2 ページ) - ねとらぼ